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人格主義と近代

「7つの習慣」という、全世界で3,000万部、日本でも累計200万部を売り上げ、ベストセラーとなった本があります。

世界で最も影響を与えたビジネス書の一つと言われているそうです。

この本は、成功について考えてみるにはまさに相応しい題材だと思いましたので、今回、読書感想文を作成してみました。(ちなみに読書感想文であって、書評ではありません。)

この本の題名が「7つの習慣」というだけあって、習慣が7つあるのですが、それぞれの習慣について触れる前に、まずこの本がどのようにしてできたかを見ていきたいと思います。

以下は該当する引用です。

— 引用ここから —

私はその頃、ものの見方に関する研究と並行して、1776年のアメリカ合衆国独立宣言以来これまでに米国で出版された「成功に関する文献」の調査に夢中になっていた。(中略)

成功をテーマにした書籍を200年さかのぼって調べていくうちに、はっきりとしたパターンが見えてきた。最近の50年間に出版された「成功に関する文献」はどれも表面的なのだ。

(中略)これとはまるで対象的に、建国から150年間に書かれた「成功に関する文献」は、誠意、謙虚、誠実、勇気、正義、忍耐、勤勉、質素、節制、黄金律など、人間の内面にある人格的なことを成功の条件に挙げている。私はこれを人格主義と名付けた。

第一次世界大戦が終わるや人格主義は影を潜め、成功をテーマにした書籍は、いわば個性主義一色となる。

成功は、個性、社会的イメージ、態度・行動、スキル、テクニックなどによって、人間関係を円滑にすることから生まれると考えられるようになった。

— 引用ここまで —

ある意味で、この文章こそが、この本の要約と言ってよいかもしれません。

ここを出発点として、著者は「人格主義」にこそに本質的な成功の原則があり、それを体系化したものが「7つの習慣」だと主張します。

一言で言えば「人格主義の方が、個性主義より本質的である」と。

「人格主義か?個性主義か?」の枠組みの中で語るのは、「やり方より、あり方が重要である」など、言葉は違えど、自己啓発に共通する特徴とも言えます。

さらに表現方法として、比較対象を「表面的」だとすることで、人格主義を「本質的」であると描くことは、説得力があります。

では、成功をキーワードにした時、この「人格主義か?個性主義か?」という枠組みの中で考えることだけで十分だと言えるのでしょうか?

このことを考えるに当たって「7つの習慣」の引用部分に話に戻すと、この本を著述するに当たって研究したのが「過去200年の米国における成功に関する文献」というところはポイントです。

ここで、「7つの習慣」は「現代」ではなく「近代」の枠組みが前提にあることが分かります。

正確に言うと、近代の枠組みが、現代でも普遍的に通用するという主張です。

まず「7つの習慣」が初版された1989年から過去200年を中心に研究しているわけですから、調査した時期の大半が近代です。

さらに「人格」や「個性」という概念を軸においていることが、非常に近代的。

それ以上に「成功には原則がある」という前提が近代であり、それを7つの原則に集約したのですから、まさに近代的成功の要約本だと言えます。

そうなると、この本の背景には「近代哲学」の影響を受けていることが分かり、著者の語る「人格主義の方が、個性主義より本質的である」という提案は、「近代」で語られる枠組みの話だと言えるのかもしれません。

もちろん、近代の話でも、古代の話でも、現代である今でも使えるのならば何ら問題なのですが、そのまま使って良いのか、それとも現代的に解釈し直す必要があるのか、それとも全く使えなくなっているのかは吟味する必要があります。

では哲学を応用するとどう解釈できるか。

少し長くなりそうなので、続きは後ほど。

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この記事を書いた人

(プロフィール非公開)
講師陣の中でもっとも哲学者の思考に近い存在。
その血も涙もない論理展開は聞いている者を「ロジカル・ハイ」の世界に誘い、貼り付いている常識を引き剥がし、聞く者の思考を再構成させていく。
しかし、その根底から感じられるアツい想いが聞く者に中毒性をもたらしたりもしている。
時折、聞こえてくる異世界からのロジックをどうぞお楽しみください。

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